機関投資家動向
株式
いずれにせよ、シルチェスターが保有する日本株の価値は急上昇している。円安の進行が輸出企業の利益を押し上げており、日本国内ではインフレがようやく定着しつつある。ブラックロックのラリー・フィンクCEOやバフェット氏ら投資界の大物が東京を訪れ、日本市場を持ち上げる発言をしている。
シルチェスターを「ディープバリュートレーダー」と呼ぶみずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストは、「エンゲージメントは水面下での交渉、しかもソフトエンゲージメントだ。ここでプッシュすれば地銀が変わるのではと思って株主提案したのかもしれないと推測する」と語った。
シルチェスターは、日本の企業統治の改革に勇気付けられているとしながらも、やるべきことは多いと指摘している。
ウォール街でトレンドフォロー型のクオンツファンドが勢いを盛り返しており、今年は2008年以来の好調な滑り出しとなっている。株式相場の上昇継続と商品相場の大きな値動きが背景にある。
元メリルリンチのオプショントレーダーが設立したマルバニー・キャピタル・マネジメントなどの勝ち組は、2月だけで45%のリターンを獲得。農業などニッチ(隙間)市場での力強いトレンドに乗ったほか、人工知能(AI)ブームを背景とした連日の株式相場高騰が寄与した。事情に詳しい関係者によれば、ダン・キャピタル・マネジメントでも旗艦ファンド(運用資産9億3000万ドル=約1374億4000万円)の年初来リターンが31%となっている。
このところの世界株上昇が後押しし、AQRキャピタル・マネジメントでは2月、少なくとも3つのトレンドフォロー戦略で過去2番目の好成績を収めた。
昨年10月以降の米国株急騰を受けて、ウォール街では1990年代後半の好不況サイクルと比較する声が相次いで出ている。しかし、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストはS&P500種株価指数に「バブルが形成されている兆候はない」と論じた。
足元の米国株には価格と本質的価値のギャップや投機を反映するレバレッジの活用など、過去のようなバブル状態は見られないと、サビタ・スブラマニアン氏率いるチームは11日の顧客向けリポートで指摘。
上場投資信託(ETF)運用会社アーク・インベストメント・マネジメントの創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるキャシー・ウッド氏は、半導体技術のサプライチェーンが回復する過程で、半導体銘柄は相場の調整に耐えることになるかもしれないと見解を示した。
ウッド氏は8日、ブルームバーグ・ビジネスウィークラジオに対し、「調整に見舞われる可能性のある一つの場所は、あくまで調整であり、これの終わりとは全く考えていないが、それは半導体分野だ」と語った。
シティグループのスコット・クロナート氏はリポートで、マグニフィセント・セブンがS&P500種構成銘柄の利益のうち、約20%をたたき出している点に言及。これは時価総額のウェートがS&P500種の約3分の1であることをほぼ正当化すると話す。
その上で「足元でAI構築が進んでいるように、当時はネットインフラを構築するという前提があった」としつつも、「これを支える企業の収益とキャッシュフローの性質は著しく異なる」と述べている。
債券
新興国の政府のデフォルト(債務不履行)リスクは今年に入り低下している。これを受け、つい最近まで急落の危機にひんしていた債券は上昇し、ジャンク級(投機的格付け)のソブリン債は2019年以来最高の年初スタートを切った。
エジプトでは相次ぐ投資が見込まれ、パキスタンでは新政権が誕生するほか、アルゼンチンでは改革に向けた政治的な取り組みが再開された。現時点で債券市場でディストレスの兆しを見せているのは10カ国と、2022年の半分にとどまっている。
パインブリッジ・インベストメンツのマネーマネジャー、アンダース・フェアグマン氏は「今年はハイイールドの新興国ソブリン債の大規模なデフォルトを全く予想していない」と指摘。市場のダイナミクスはここ数週間で完全に変化し、エジプト、アルゼンチン、パキスタンの債務再編の可能性は「著しく低下した」と付け加えた。
為替
ドル・円相場を動かす最大要因は米利下げ期待の変化であり、日本銀行の金利政策ではないと、コロンビア・スレッドニードル・インベストメントの金利ストラテジスト、エド・アルフセイニ氏は指摘した。
「日銀のリフトオフ(利上げ開始)は既に長らく織り込まれてきた。これは円にそれほど恩恵をもたらしていない」と同氏は発言。
昨年末の円上昇については、「日銀を要因とする動きではなく、米利下げ期待がオーバーシュートしたことが影響した」と述べ、この行き過ぎが後退すると、円が下落したと分析した。
「つまるところ、円の運命は日銀が握っているのではなく、米国のリスクの手中にある」と続けた。
世界最大級のヘッジファンド運営会社ミレニアム・マネジメントは、エジプトが通貨切り下げを決めた際に数千万ドルの利益を得たと、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。あるシニアトレーダーの賭けが奏功したという。
関係者らによると、このトレーダーはドバイ在勤のナビーン・チョッパラ氏で、ミレニアムには昨年入社した。同氏は、エジプトが経済危機を食い止めるため通貨の切り下げを容認すると予想していたという。関係者らは、詳細は非公開だとして匿名を条件に語った。
エジプト中央銀行は6日、臨時会合で政策金利の600ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き上げを決め、為替レートの決定を市場の力に委ねる方針を示した。これを受け、通貨ポンドは38%急落。関係者の一部によれば、チョッパラ氏は約4000万ドル(約59億3000万円)の利益を得たという。
以前勤めていたゴールドマン・サックス・グループでトップトレーダーの一人でもあったチョッパラ氏は今回、エジプト・ポンドへの賭けを行う上でノンデリバラブル・フォワード(NDF)と呼ばれるデリバティブを利用したと、関係者らは指摘。関係者の一部によれば、この取引では実施する上でコストも多くかかったとみられ、それがチョッパラ氏の最終的な利益を押し下げた可能性もあるという。
不動産
世界最大のオルタナティブ資産運用会社、米ブラックストーンのジョン・グレイ社長は不動産価格が底打ちしたと指摘。値崩れした資産を素早く買い上げるべき好機が訪れていると述べた。
「極めてネガティブなセンチメントの中で価値下落がすでに起きており、底打ち局面に入った時が行動するタイミングだ」と、グレイ氏はローマでブルームバーグテレビジョンとのインタビューで話した。
グレイ氏は「不動産市場が底を打ち、金利が低下し始め、連邦公開市場委員会(FOMC)がいずれ利下げに踏み切ると考えられる状況で、新規の供給は不足している。商業用不動産の環境はより建設的となるはずで、ブラックストーン・リアル・エステート・インカム・トラスト(BREIT)にはポジティブに作用すると考えている」と話した。
ウォール街のエリートやバカンス客に人気のロングアイランドのビーチタウン、ハンプトンズの不動産業者は、好調な販売シーズンに備えている。
ハンプトンズの物件の売買は通常、春に活発化するが、在庫不足、住宅ローン金利の上昇、景気への懸念が購入を凍結させた近年と比較すると、今シーズンは特に活況を呈すると予想される。借り入れコストが低下し、金融市場が活況を呈したことから、2023年末には買い手の信頼感が回復し始めた。売り手は、需要の高まりと過去最高を記録した価格のチャンスを捉えようと考えるようになった。
「23年には不況が迫っているという話が盛んにあったが、不況はやってこなかった」と、高級物件販売を専門とする仲介業者、オフィシャルの共同創業者、タル・アレクサンダー氏は話した。
「傍観していた買い手は、金利が下がれば市場での競争が激しくなり、価格がさらに上がるかもしれないと不安になり始めている」とコーコラン・グループのパム・リーブマンCEOが述べた。
機関投資家
スティーブ・コーエン氏率いるポイント72アセット・マネジメントはこの1年間で約38億ドル(約5600億円)を調達し、運用総額は過去最高に拡大した。創業者のコーエン氏がヘッジファンド業界に復帰してから6年が経つ。
今年初めの運用総額は約323億ドル。コーエン氏の運用がその3分の1を占めている。事情に詳しい関係者が明らかにしたところによれば、既存顧客が可能な限り最高のリターンを得られるよう、ポイント72は新規投資家の受け入れをほぼ見送ることを決定した。
アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国は、人工知能(AI)と半導体のディールに焦点を合わせたテクノロジー投資会社を設立した。事情に詳しい複数の関係者によると、運用資産は数年以内に1000億ドル(約14兆7000億円)を超える可能性がある。
アブダビは11日、新会社MGXを発表。政府系ファンドのムバダラ・インベストメントとAI企業のG42を設立パートナーとしている。発表文によると、ムバダラの直接投資プラットフォームの最高経営責任者(CEO)であるアーメド・ヤヒア・アル・イドリシ氏がMGXのCEOに就任する。
米グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリン氏のファミリーオフィスが、グリーン投資の発掘と管理の担当者として、シンガポールの政府系ファンドGICの元サステナビリティー責任者を採用した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
中国
国内最大の中国株上場投資信託(ETF)華泰パインブリッジCSI300ETFは時価総額が過去最高の2000億元(約4兆1000億円)に達した。市場の信認を高めようと政府系ファンドが最近、中国株買いに動いたことが寄与した。
中国招商証券が追跡する上位23社のクオンツファンドは、2月19日週にベンチマークをしのぐリターンとなり、一部は最大12.5ポイント上回った。中国株式市場は同月に入り大きな売りに見舞われていた。
ブルームバーグニュースが確認したデータや運用会社のインタビューによると、大半の会社は年初来ではなお市場全体に後れを取っているものの、衍復投資や上海満風資産管理など、アルゴリズム戦略を維持している会社は混乱中もずっとアウトパフォームしている。
現在のセンチメントは、中国株が世界最悪のパフォーマンスとなり、一部の大物投資家がエクスポージャーを減らしていたわずか数カ月前と比べ、急激な改善を示している。株価暴落に終止符を打つという中国政府の決意、経済と収益が回復しつつある兆し、海外からの資金流入の回復などが、アバディーンやM&Gインベストメント・マネジメントなどの投資家に、市場が底を打ちつつあると信じる理由を与えている。
GAMインベストメント・マネジメントの投資アナリスト、ファンウェイ・ツェン氏は「昨年後半以降で、中国市場が何週間も上昇を続けたのは珍しい。中国のハイテク企業や再生可能エネルギー企業の多くは、コスト削減と効率化に注力してきた。マージンが改善し売り上げも伸びた」と話した。
一般
今から約5年前、「サステナビリティー(持続可能性)」にウォール街がにわかに熱中し始めた際、ボストン大学のアンディ・キング教授(経営戦略)は、その様子を懸念を持って見ていた。
ハーバード大学やロンドン・ビジネス・スクールなどの学者たちは、人や地球のために良いことは、企業の利益にもつながるとする研究結果を多数発表していた。それらの論文は米上院での証言で引用されたり、企業の気候関連規則を作る規制当局に言及されたり、数十億ドル規模のファンドを売り込むウォール街の企業に引き合いに出されたりしてきた。
キング教授は、そうした研究の結論に疑問を呈した。同氏は、数十年にわたって環境への害を減らすことで企業が利益を上げられるかを分析し、ボトムラインに影響を与えるには財務的な利益が小さ過ぎる場合が多いことを発見していた。
同様の結論に達している学者は、増えている。コロンビア大学やカリフォルニア大学バークリー校、マサチューセッツ工科大学などの研究者が、キング氏を支持する研究結果を発表している。こうした学者たちは、地球温暖化防止への取り組みをおおむね支持している一方、多くの企業が採用する、ESGの考慮に基づくいわゆるESGプログラムを巡る論争に火を付けている。
キング氏とエラスムス大学ロッテルダムのルカ・ベルチッチ教授は、モザファル・カーン氏(ミネソタ大学教授を経て現在はコーズウェイ・キャピタル・マネジメント勤務)、ハーバード大学のジョージ・セラフェイム氏、ノースウェスタン大学のアーロン・ユン氏による論文を分析した。15年に発表された同論文では、ESG評価が高い企業は低い企業を大きくアウトパフォームするとの結果が出ている。
この論文はブラックロックやモルガン・スタンレーなどの金融界の主要企業が参照してきた。学術文献データベース「ウェブ・オブ・サイエンス」によれば400回余り引用され、その年に発表された経済・ビジネス関連の論文の上位1%に入っている。
キング氏とベルチッチ氏はこの分析を再現しており、400以上の統計モデルにデータを流し、人工知能(AI)を使用して結果を検証した。企業のESG格付けと株式パフォーマンスを結び付ける証拠はほとんどのケースでなかったと、22年に「ジャーナル・オブ・ファイナンシャル・リポーティング」に発表した論文で同氏らは指摘。「彼らの分析は無意味だ」とキング氏は言う。
「われわれは結局、裏付けとなる証拠を無批判に受け入れてしまった」と同氏。「間違いを犯したときは、正直にオープンにすべきだ。最も気になるのは、批判的な声を封殺することだ」と話している。
英国は6日、同国に居住しているが海外に永住権を持つ人が15年間、海外資産にかかる税金を免除される「ノン・ドム・ステータス」を廃止すると発表した。
欧米諸国の多くで貧富の差が拡大する中、外国人富裕層を優遇してきた制度の見直しが行われることになった。ポルトガルは昨年10月、非居住者プログラムを廃止する計画を発表した。これは、外国人が10年間、地元民よりも低い所得税と年金拠出金を支払うことを認める政策だ。
ドバイをはじめとするアラブ首長国には、その緩やかな税法と富裕層向けのアメニティーのおかげで、ここ数年世界中からヘッジファンド運用者やバンカーが殺到している。アラブ首長国連邦(UAE)は個人所得、キャピタルゲイン、相続、贈与、不動産に課税しない。
またドバイは最近、起業家やエンジニアなど、長期滞在ビザを申請できる人の範囲を拡大した。しかし、ドバイはその人気から不動産価格が高騰し、手が届かなくなってきている。インターナショナルスクールやプライベートクラブのキャンセル待ちもかなり長くなっている。
17年に創設されたイタリアの外国人に対する寛大な税制は、海外居住者の誘致に非常に効果的だ。ミラノに移り住み、この税制優遇措置の恩恵を受ける人の数は、21年には2倍以上となり合計1300人を超えた。新規居住者は10万ユーロ(約1600万円)の年会費を支払い、国外所得に対する課税が免除される。
近年のミラノへの外国人流入は不動産価格を押し上げ物価上昇の一因となり、地元住民の緊張をあおっている。それでも、英国やポルトガルが外国人に対する優遇措置を撤回する中、資産コンサルタントによれば、イタリアは特に米国や中東の富裕層にとって、低税率の欧州諸国に資金を置くための主要な受け皿の一つになるという。
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