モメンタム指標
De Bondt and Thaler (1985)は、米国株に置いて長期の過去リターン(3-5 year)とその後のリターンとの間に負の相関がある(リターン・リバーサル)ことを示した。一方で、Jagadeesh and Titman (1993)は1965-89年の米国株式市場を対象に、過去リターン(3-12 month)と将来リターンの間に正の相関がある(モメンタム)ことを発見した。Rowenhorst (1998)は、欧州株式市場でも同様の現象が観察されることを示している。日本株式市場では中期のモメンタム効果が観測されないことが知られている(Ex. Chui, Titman, and Wei, 2000)。Allianzの2019年のレポートによれば、モメンタム戦略はマルチアセットを組み合わせることが有効であること、4-12 monthのルックバック期間で継続トレンドは約5ヶ月続くことが示されている。
ベータ、アルファ、シャープレシオ
ベータは、市場ポートフォリオの収益率に対する証券の収益率の限界的な寄与度を示すもので、たとえばポートフォリオのベータは、$$\beta_i=\frac{\sigma_{iM}}{\sigma_M^2}$$で定義される。定義から明らかなように、ベータは「証券の収益率」の「市場ポートフォリオ収益率」の変化に対する感応度を示す。したがって、ベータが大きい証券はよりボラティリティが高く、小さい証券はボラティリティが低いことを意味する。
すべての投資家が直面しているリスクとリターンとのトレードオフを示す直線を資本市場線(Capital Market Line, CML)という。CMLは無リスク金利を切片とし、市場ポートフォリオのリスク・リターンを通る直線である。同一リスクにおける証券の平均収益率とCMLの差はアルファと呼ばれ、超過リターンの指標として用いられるとともに、誤った価格付けの証券を探索する指標としても用いられる。
証券のシャープレシオは$$S_i=\frac{R_i-R_f}{\sigma_i}$$
で定義される指標で、\(R_f\)は無リスク金利。証券の収益率の標準偏差をリスク尺度とするときの証券のリスクプレミアム(超過収益性)を示す。
PER
PERとはPrice Earnings Ratioの略で、企業の直近の株価の1株当たり純利益(EPS:Earnings Per Share)に対する比率。EPSは直近12ヶ月(LTM)の純利益に対応する。フォワードPER(FPER)は今後12ヶ月(NTM)のフォワードEPSに対応する。PERの数値が低ければ、株価は割安と判断される。株主資本コストが高いほど適正PERは低くなり、配当成長率が高いほど適正PERは高くなるので、PERを比較する際は、企業のリスク特性や成長性の違いを考慮する必要がある。
PCFR
PCFRとはPrice Cash Flow Ratioの略で、株価キャッシュフロー倍率のこと。キャッシュフローは直近12ヶ月(LTM)の営業キャッシュフロー(営業CF:税金等調整前当期純利益(以下、税引き前利益)に減価償却費を加算したもの)に対応する。フォワードPCFR(FPCFR)は今後12ヶ月(NTM)の営業CFに対応する。PCFRの数値が低ければ、株価は割安と判断される。
利益水準に依存した投資尺度を用いると、たとえば設備投資型の産業では、設備投資の状況によって利益が大きく変動するため、適切な尺度にならないことがある。さらに、会計基準の相違の影響も受けやすい。このような状況ではPCFRの利用が推奨されている。
PBR
PBRとはPrice Book-value Ratioの略で、企業の直近の株価の1株当たり純資産(BPS:Book-value Per Share)に対する比率。1株あたりBPSは直近の発行済株式数に対応し、株式の解散価値を表す。PBRの数値が低ければ、株価は割安と判断され、1倍が底値の目安とされる。
PBRが1倍を割るということは、企業が株主から調達した資本を有効活用しておらず、価値破壊を起こすと市場が判断している状態と解釈することができる。PBRとROEとの間に観察される正の相関関係はこうした解釈を裏付けるものである。
PSR
PSRとはPrice Sales Ratioの略で、株価売上倍率のこと。売上高は直近12ヶ月(LTM)の売上高合計に対応する。銀行の場合、受取利息にその他経常利益を合計したものを用いる。フォワードPSR(FPSR)は今後12ヶ月(NTM)の売上高合計に対応する。PSRの数値が低ければ、株価は割安と判断される。
売上高は株主だけでなく債権者にも帰属するため、企業価値売上倍率がより適切な指標だが、伝統的にPSRが用いられる。赤字企業やスタートアップ企業など十分な利益が出ていない企業の評価に用いられることが多い。
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率とはEV(Enterprise Value:事業価値)がEBITDAの何倍になっているかを測る財務比率のこと。EBITDAは直近12ヶ月(LTM)の支払利息、法人税、減価償却費および減耗費前利益に対応する。事業価値は時価総額、総負債、優先株式、少数株主持分の合計から現金と短期投資を差し引いて算出。銀行の場合、現金と短期投資の代わりに預け金を用いる。フォワードEV/EBITDA倍率(FEV/EBITDA倍率)は今後12ヶ月(NTM)のEBITDAに対応する。
資本構成、税率、減価償却法に依存しないキャッシュフローに基づいた手法で、単純にEV/EBITDA倍率は事業価値をEBITDA何年分で賄えるかを表している。企業買収をした際に何年間で投資資金を回収できるかの目安として国際M&Aやバイアウトファンドの対象企業評価にも使われ、簡易買収倍率とも呼ばれる。減価償却費に比べて設備投資が多いような成長企業の場合、EV/EBITDAは低くなる傾向にある。
EBITDA有利子負債倍率
EBITDA有利子負債倍率は、有利子負債をEBITDAで割った健全性の指標。総負債(TD)は直近会計期間の短期および長期負債を含み、純負債(ND)は直近会計期間のTDから現金および短期投資を差し引いた値である。
ROE、ROA、ROIC、WACC
ROEとはReturn On Equityの略で、自己資本利益率:ROE=EPS/BPS×100で計算される経営効率の指標で、数値が高いほど効率性が高いとされる。ROAとはReturn On Assetの略で、総資産利益率のこと。ROICとはReturn On Invested Capitalの略で、投下資本利益率のことでもっとも信頼性の高い経営効率の指標とされている。それぞれのフォワード値にはアナリストの予想平均値を用いている。WACCとはWeighted Average Cost of Capitalの略で、借入と株式調達にかかるコストの加重平均値。ROIC-WACCは、調達コストを考慮した投下資本利益率で正の値が望ましい。
Treynor ratio, Information ratio, 決定係数
トレイナー測度は$$T_p=\frac{R_p-R_f}{\beta_p}$$
で定義される指標で、\(R_f\)は無リスク金利。ベータをリスク尺度とするときのポートフォリオのリスクプレミアム(超過収益性)を示す。 トレイナー測度はパフォーマンス測定の基準が十分に分散化されていることを仮定しているのに対し、シャープレシオはポートフォリオの分散も含めたリスクプレミアムを測っているため、相互補完的に用いることが多い。
情報比(レシオ)はベンチマーク超過リターンの時系列平均を標準偏差で割ったものであるため、低いリスクで高いリターンを得られれば、IRは高くなり、その運用は効率的だということができる。似たような指標としてシャープレシオがある。シャープレシオはベンチマーク超過リターンの代わりに安全資産金利(通常は国債金利)を用いて、同様にリスク調整済みの超過リターンを計算する。IRはどのベンチマークを採用するかによって値が変わるため、ベンチマークの異なるファンド間でリターンを比較したい場合などは、IRよりもシャープレシオを使うほうが多い。
決定係数(coefficient of determination)は、回帰分析における線形回帰式の当てはまりを示す統計的測度であり、ベンチマークに比べてどの程度、分散化が行われているかを測る指標として用いられる。分散投資の文脈では、ベンチマークとの相関を測る指標としての有用性が高い。
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