機関投資家動向
米投資会社タイガー・グローバル・マネジメント最大のベンチャーキャピタル(VC)ファンドの投資家は、9月末時点で18%の含み損を抱えている。同社が複数のポートフォリオ企業の評価額を引き下げたためだ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
情報の非公開を理由に匿名を条件に語った関係者によれば、約130億ドル(約1兆9200億円)規模のファンド「プライベート・インベストメント・パートナーズ15」は、人工知能(AI)を活用した電子メール会社スーパーヒューマンの評価額を45%引き下げ、プライバシーを最優先した検索エンジンプラットフォーム、ダックダックゴーの評価額を72%引き下げた。
また、タイガー・グローバルは非代替性トークン(NFT)コレクション「ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(BAYC)」の持ち分の評価額を69%、NFTのマーケットプレイスであるオープンシーの評価額を94%引き下げた。これらの数字は、タイガー・グローバルが各社に最初に投資した後、どれだけ評価額を引き下げたかを示している。
金利上昇の中でスタートアップ企業が資金繰りに苦戦する中、VC業界は試練に直面している。フィリップ・ラフォント氏率いるコーチュー・マネジメントもまた、オープンシーの内部評価額を90%引き下げ、カレンドリーとノーションの持ち分の評価額も引き下げたと、ブルームバーグが以前報じていた。
同社の上場投資信託(ETF)「アーク・イノベーションETF」(ティッカー:ARKK)は今年、ナスダック100指数に長期にわたり出遅れていたが、11月は31%上昇と、記録的リターンとなった。米金融当局が2024年に利下げに踏み切れるとの投資家の期待感が、高リスク資産価格を押し上げている。
買いが買いを呼ぶ今回のマーケットメルトアップはここ100年でも規模の大きい一つとなりそうで、プロテクティブ戦略の需要はほぼ消失した。S&P500種株価指数は今月だけでも約9%上昇しており、プロと個人投資家は遅れずについていこうと必死だ。インフレ連動債や弱気オプションなどディフェンシブな避難先は見向きもされなくなっている。代わりに、ジャンク(投資不適格)債や小型株への投資意欲が高まっている。
背景にあるのは米金融当局による利上げが終了し、来年に利下げが始まるとの見方だ。株式60%・債券40%の60/40ポートフォリオ戦略は月間ベースで2020年以来最良のパフォーマンスとなる方向だ。
みずほインターナショナルのグローバルマクロ戦略トレーディング責任者、ピーター・チャットウェル氏は、利下げが近づきつつあるかもしれないという事実は高まる市場心理を下支えする持続的な根拠にはならないと指摘。「米金融当局がリセッションを理由に利下げするなら、それが株式の支援材料になる可能性は極めて低い」とし、「株式相場はスイートスポットに入っているように見受けられ、この水準を維持するには大きな利益の伸びが必要になる」と述べた。
日本では、創成期の企業への資金の出し手が多い一方で、事業が軌道に乗り、上場も視野に入る後期スタートアップへの資金の出し手が不足していることが課題だとされる。内閣府の規制改革推進会議に提出された資料は、日本のベンチャーキャピタル(VC)は総じて規模が小さいため、後期スタートアップの資金需要に応え切れず、小粒の上場を促進する「負の循環」が起きていると指摘する。
米国などには「ユニコーン」と呼ばれる評価額10億ドル(約1500億円)以上の未上場スタートアップが数多く存在する。政府は25年度までに日本で50社のユニコーン企業を創出する目標を掲げる。これに呼応して、米投資ファンドのカーライル・グループが新世代バイオ素材開発メーカーのスパイバーの投資ラウンドに参加するなど、PEファンドが日本のスタートアップに少額出資する例が増えてきているが、過半出資は珍しい。
名古屋商科大学大学院教授で規制改革推進会議の顧問を務める大槻奈那氏は「ユニコーン企業を輩出し得る成長産業に対し、何らかの形で支援すべきだというのは国是とも言える」と指摘。日本の市場活性化の観点からは国内投資家による支援が望ましいとしつつ、「国内VCの中には出口が見えてくると新たな投資に難色を示すなど口出しが増えるところもあり、起業家側から自由度が狭まるという不満も聞こえてくる」と述べる。
ヘッジファンド業界は、シタデルやミレニアム・マネジメントのようなマルチマネジャーファンドが牛耳るようになっており、安定したアウトパフォーマンスの波に乗り、かなりのレバレッジを含む運用・管理資産額は1兆ドルを上回る。しかし爆発的な成長は、業界大手が多くの同じトレードに押し寄せる状況を促した。
資産家のグリフィン氏は、シタデルやライバルが金融システム全体に影響を及ぼすシステミックリスクをもたらし、規制の強化が必要という考えに声高に反対している。だがそんな彼でさえ、過密トレードが一斉に出口に向かうような場合、広範な損失を招く危険を認識している。
グリフィン氏は9日のシンガポールでのインタビューで「マルチマネジャーヘッジファンドが10%や15%、20%の損失を被る可能性があるだろうか。それはあり得る。痛みは伴うが、システミックではない」と語った。
投資コンサルタント、マーサーのヘッジファンドリサーチ責任者ジョン・ジャクソン氏は「個別の企業および全体としてレバレッジの総量を巡る懸念と一定の過密が存在する」と指摘。リスク解消が通常非常に素早く行われることを考えると「雪だるま式に影響が出る可能性を心配している」と認識を示した。
昨年の弱気相場で大きな痛手を負った苦い記憶から、資金の安全な逃避先とみられた高配当の上場投資信託(ETF)には600億ドル(8兆9300億円)余りが流入した。
それから11カ月が経過したが、市場がハイテク一辺倒に傾く中で、その読みはことごとく外れている。中でも最下位に甘んじているのは、180億ドルのiシェアーズ好配当株式ETF(ティッカーDVY)で、運用成績は総合リターンベースでマイナス5.4%。公益や金融株に特化したことが裏目に出た。一方、ハイテク中心のETFは15%余りのプラスをたたき出している。
こうした中、200億ドル規模のSPDR S&P配当ETF (ティッカーSDY)は運用成績が総合リターンベースでマイナス3%、シュワブ米国配当ETF (SCHD)はマイナス2.4%、バンガードの高配当利回りETF(VYM)はほぼ横ばいと打撃を受けた。一方、インベスコ・ディビデンド・アチーバーズETF(PFM)はプラス6.6%とプラスを確保。プロシェアーズS&P500配当貴族ETF(NOBL)はプラス2.3%、バンガード米国増配株式ETF(VIG)はプラス9.6%となった。
インベスコのニック・カリバス氏は、PFMが精彩を欠いているのは、いわゆるハイテク7社で構成する「マグニフィセント・セブン」をアンダーウエートし、オラクル、シスコ・システムズ、IBMのようなそれほど成長性が高くないテク銘柄をオーバーウエートにしていることが要因と述べた。プロシェアーズは、NOBLの組み入れ銘柄は、S&P500種株価指数の構成銘柄全体の収益が今年縮小する中でも、平均して利益を伸ばし、「ファンダメンタルパフォーマンス」を実現したとしている。ステート・ストリートのマット・バルトリーニ氏は、配当株重視の戦略には「バリューバイアス」があり、2023年は「グロース市場」だと指摘した。
シュワブ・アセット・マネジメントのシニア投資ポートフォリオストラテジスト、DJティアニー氏は、「ごく一握りのグロース株が市場のパフォーマンスを支配する中、今年は高配当型のバリュー株にとって厳しい環境となった。金利上昇で債券が妙味を増す中ではなおさらだ」と述べた。
バークシャーの最高経営責任者(CEO)を務めるバフェット氏は声明で、「チャーリーのひらめきと知恵、関与がなければ、バークシャー・ハサウェイは現在の地位を築けなかっただろう」と悼んだ。
米経済誌フォーブスによると、マンガー氏の個人資産は27億ドル(約3980億円)。数週間前まで世界市場に関する発言を続けており、ポッドキャスト「アクワイアード」では日本に数十億ドルを投資したバフェット氏の判断について、「考えるまでもないこと」だったと評していた。
バフェット氏は2021年のCNBCの取材に、初めて会った後、「こんな男はもう見つからない(と思った)。とにかく波長が合った」と振り返った。
米運用会社パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメント創業者で資産家のビル・アックマン氏は、米金融当局が市場予測よりも早く利下げを始めると見込んでいる。
アックマン氏(57)は2024年1-3月(第1四半期)にも利下げがあり得ると指摘。スワップ市場のデータによれば、トレーダーらは来年6月の利下げを完全に織り込んでいる。24年5月の利下げ確率は約80%。
アックマン氏は、ブルームバーグテレビジョンの番組「ザ・デービッド・ルーベンスタイン・ショー:ピアツーピア・カンバセーションズ」で、「インフレ率が鈍化する中で、経済に影響を及ぼす実質金利が上昇し続けているのが現状だ」と指摘した。
同氏はインフレ率が3%を割り込む傾向にあるときに米金融当局が金利を約5.5%のレンジに維持すれば、「実質金利としては非常に高い」と述べた。
アックマン氏は米経済がいわゆるソフトランディングに向かっているとの確信はないと説明。「近く利下げを始めなければハードランディングの現実的リスクがあると私は考えている」とし、経済の軟化を示す証拠を目の当たりにしていると語った。
ブルックス・フリードリヒ氏は投資顧問の世界であまり知られていない人物だ。ウォール街の専門家の間でさえ、さほど知られていない。しかし、39歳の同氏と米ペンシルべニア州バーウィンに本社を置くエンベストネットは、毎年数十億ドルを金融アドバイザー向けのオーダーメード戦略に振り向け、モデルポートフォリオブームの一翼を担っている。
エンベストネットはおよそ150の資産運用会社からの約2000のカスタマイズされた商品を提供するプラットフォームを提供することで、株式、米国債、クレジットなどを組み合わせたオーダーメードのポートフォリオに対する退職年金口座などからの需要の高まりに対応している。フリードリヒ氏はブラックロックやバンガード・グループといった大企業にとって、数兆ドル規模のビジネスチャンスを仲介する立場になりつつある。
エンベストネットのリサーチ戦略担当プリンシパルディレクターであるフリードリヒ氏は「エンドクライアントは『大型ハイテク株へのエクスポージャーを持たない投資商品が欲しい』と言っている。退職者のポートフォリオを見ると、市場の構造のためにハイテク株へのエクスポージャーが高過ぎる」と述べた。
ブラックロックは最近、モデルポートフォリオが現在の約4兆ドルから今後5年で10兆ドルのビジネスに成長する可能性があると予測した。ブラックロックやチャールズ・シュワブは、自社商品を既製の戦略にパッケージ化することで利益を得ており、エンベストネットはテクノロジーを駆使した仲介業者としての役割を果たしている。
こうした資産配分アプローチに批判がないわけではない。不透明なモデルが、パフォーマンスの疑わしいファンドに巨額の資金を流しているとの指摘がある。それでも、大半が低コストの上場投資信託(ETF)で構成されるモデルポートフォリオはアクセスが容易で比較的安価なため、顧客には好評だ。
フリードリヒ氏によれば、モデルポートフォリオの人気は、異なる資産クラスを簡単に組み合わせることができる点にあるという。セパレートリー・マネージド・アカウント(SMA)を使ったより伝統的なアプローチでは、大型株グロースやバリューのような単一の戦略や投資スタイルに集中する傾向があるという。
エンベストネットのプラットフォームでは、資産の半分以上が60/40または70/30戦略で、株式をオーバーウエートとし、残りを債券に回している。昨年は、大インフレ危機の中で債券が株式ヘッジに失敗したため、バランス型投資スタイルに対する批判があったが、フリードリヒ氏によれば、高齢投資家の需要は依然として強い。
世界的な金利反落でバリュー(割安)株のパフォーマンスが失速する一方、高配当株は比較的堅調だ。日本企業の増配が今後も続くと見られる上、来年1月に始まる新たな少額投資非課税制度(NISA)の下、個人投資家からの資金流入が加速するとの期待もある。
CLSA証券のストラテジスト、ニコラス・スミス氏はバリュー株の中でも高配当株とそれ以外の間で二極化が起き始めていると指摘。低PBR株や株価収益率(PER)の低い銘柄などは下げており、バリュエーションの安さだけでは買われなくなっていると言う。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が30日に開く閣僚級会合を前に、ヘッジファンドは原油価格見通しに関して一段と弱気になっている。同会合は当初26日開催の予定だったが延期された。
コンサルティング会社エビデントがまとめたデータによると、ゴールドマンは9月までの1年間にモルガン・スタンレーやシティグループといった競合相手に106人を奪われ、60人の純減となった。2番目に人材の流出が大きかったのはバンク・オブ・アメリカ(BofA)で、55人の純減だった。半面、ウェルズ・ファーゴは130人増と、最大の純増幅となった。
エビデントのアレクサンドラ・ムサビザデ最高経営責任者(CEO)はインタビューで「単に雇用するだけでなく、人材を育成し、定着させることが重要だ」とした上で、「彼らは引く手あまたなのだから」と話した。
米ヘッジファンド運営会社シタデルと、マーケットメークを手掛ける関連会社シタデル・セキュリティーズは、オーストラリア・シドニーの最新インターンシッププログラムで応募者の0.3%弱しか採用しなかった。競争の厳しさが浮き彫りになった。
両社のインターン10人には、国際情報オリンピックや数学オリンピックの出場者、チェスのチャンピオンが含まれる。応募者数は、両社が世界インターンシッププログラムを豪州に拡大した昨年から36%増加した。
2023年を迎えるに当たりいつもの強気姿勢を捨てたウォール街のストラテジストらは結局、猛烈な米国株高に虚を突かれる格好となった。そんなストラテジストが今、来年に向けていつも通りの姿勢に戻り、来年も相場は上昇すると予想している。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)とBMOキャピタル・マーケッツ、ドイツ銀行のストラテジストは、S&P500種株価指数が来年も上昇し、22年初めに記録した最高値を上回ると予想。ゴールドマン・サックス・グループとソシエテ・ジェネラルはそこまで楽観していないものの、24年末までに株価は若干上昇すると予測し、過去最高値に迫るとみる。
今年の上昇を年初時点で正しく予想していた数少ないストラテジストであるドイツ銀行のビンキー・チャダ氏とBMOのブライアン・ベルスキー氏らは現在、S&P500種の24年末目標を5100と、セルサイドの同業者の中では最高レベルとしている。これは27日終値から12%の上昇となる。チャダ氏はインフレの好ましいトレンドと企業業績の伸びが主要なけん引役になると予想。ベルスキー氏は労働市場の回復力や消費者物価上昇圧力の緩和、来年後半の米利下げへの期待を挙げた。
今年に入りいち早く強気に転じた一人であるBofAのサビタ・スブラマニアン氏は、24年末予想を5000と予想。「米金融当局の利下げを予想しているからではなく、当局が利上げで達成したインフレ抑制と企業の効率化が理由だ」と説明した。ゴールドマンのデービッド・コスティン氏も今年の早い時期に前向きな見方に転じており、S&P500種は来年は4700まで上昇すると予想。約3%の上昇となるが、22年1月に付けた終値ベースの最高値4796.56にはわずかに届かないとみている。
ドルは今月、鈍化傾向を示す米経済指標や連邦準備制度による過去数十年で最も積極的な利上げサイクルが終わりに近いとの見方が強まったことで下落しているが、それにもかかわらずヘッジファンドはドル高に賭けるポジションを積み増した。
株式6割・債券4割の「60/40」ポートフォリオ戦略が今年復活すると正確に予測していたバンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジスト陣が、ここにきて流れが急激に反転するリスクがあると警鐘を鳴らしている。
BofAによれば、60/40戦略は11月に、月間としては30年余り前の旧ソ連崩壊後以来となる好調な成績を収めた。ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏のチームが行った過去のデータ分析によると、このように「モンスター」級に大きく値上がりした局面の後には通常、揺り戻しが来る傾向があることが分かった。
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