オルタナティブ投資(Alternative investments)
オルタナティブ投資とは株や債券といった伝統的資産(Traditional investments)と対比して位置づけられる投資・運用方法である。その理由はリスク・リターン特性が伝統的資産と異なるからである。オルタナティブ投資の特徴は以下の4つである。
- 流動性が相対的に低い
- 伝統的資産と組み合わせることで分散効果がある
- 評価コストの高さ
- パフォーマンス評価の難しさ
オルタナティブ投資は伝統的資産と比べて敷居が高いにもかかわらず、最近注目されており、機関投資家のポートフォリオに占める割合は年々高まっている。その理由は、市場が伝統的資産よりも非効率的で、裁定機会を見出しやすいと考えられているからである。それに加えて、伝統的資産と組み合わせた分散効果への期待もあるだろう。
オルタナティブ投資は、伝統的にはプライベート・エクイティ(PE)、不動産(REITを含)、コモディティの3つで、近年はヘッジファンド、マネージド・フューチャーズ(CTA戦略を取るヘッジファンドなど)、ディストレス、インフラ投資なども市民権を得つつある。
主な区分は以下の通りである。
- 伝統的資産:国内債券、国内株式、先進国債券、先進国株式、短期資金
- 異なる投資対象:新興国債券、新興国債券、ハイイールド債(ジャンク債)、コモディティ、PE、不動産、インフラ投資
- 異なる投資手法:ヘッジファンド、ヘッジファンド複製ファンド、ファンダメンタルインデックス、
- ヘッジファンドの戦略
- ファンド・オブ・ヘッジファンズ
- マーケットニュートラル
- ロング・ショート(130/30など)
- 相対価値
- イベントドリブン
- グローバルマクロ(GTAA・オーバーレイもここに含めていい)
- マルチ
- マネージド・フューチャーズ(CTA)
ヘッジファンド
ヘッジファンドはマーケットリスクをヘッジするという意味に由来しており、1949年にアルフレッドジョーンズが設定したレバレッジと空売りを用いたファンドに端を発している。ただ、このファンドは現在の区分ではロング・ショート戦略を採用したもので、マーケットニュートラルではない。ポンド売りで有名になったジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドもグローバルマクロ戦略のファンドで、同様にマーケットニュートラルではないが、今日では総称してヘッジファンドと呼ばれている。
Malkiel/Saha (2005) によると、ヘッジファンドのリターン分布には負の歪度と大きな尖度を持つという特徴があることが報告されている。また、Getmansky/Lo/Makarov (2004) によれば、流動性の低い資産を保有するヘッジファンドの時系列リターンに正の系列相関が観測されている。
ヘッジファンドの各種戦略の解説
今日のヘッジファンドはマーケットニュートラル戦略のみならず、様々な投資戦略の集合体として扱われている。ここでは、そのうちのいくつかを解説しよう。より詳しい説明として、Fung/Hsieh/Naik/Ramadorai (2008), Duarte/Longstaff/Yu (2006), Agarwal/Fung/Loon/Naik (2010) などを参照のこと。
ロング・ショート戦略
ロングとショートのネットエクスポージャーを保有し、機動的に動かす戦略である。A国ロングとB国ショートの組み合わせなどグローバル株式でロング・ショートを取るものや、特定の地域内でロング・ショートを取るもの、セクター間でロング・ショートを取るような戦略が一般的である。ロング・ショート戦略の代表例が130/30戦略で、ロング130%に対して、ショート30%を振り分ける手法である。
ロング・ショートの判断はボトムアップ、トップダウンどちらの戦略のファンドも存在する。近年は個々の組み合わせより、ポートフォリオ全体のバランス(リスク・リターン比率)の設計をより重視する傾向にある。
グローバルマクロ戦略
TAA(Tactical Asset Allocation、戦術的資産配分)とは資産配分の見直しを機動的に行い、相対的に割安と判断される資産のウェイト(比重)を高め、割高な資産のウェイトを低めるトップダウン型の資産配分手法で、これを海外の資産まで広げたものをGTAA(Global TAA)という。このようにカントリーウェイトの機動的な変更を行う戦略を伝統的にグローバルマクロ戦略と呼んできたが、近年はそのうちハイリスク(ボラティリティ)なものや人によって投資判断が行われるジャッジメンタル運用ベースのものをグローバルマクロと呼ぶのに対し、ローリスク(ボラティリティ)、機械的な投資判断が行われるクオンツ運用ベースのものをGTAAと呼ぶようになりつつある。
TAAやGTAAは元々はロングのみのアロケーションを想定した用語だが、近年は負のアロケーションを許した(つまり、ロング・ショート)戦略も含めるようになっており、実務的に厳密な分類は困難になっている(し、あまり分類するメリットもない)。リターンを生み出す上で使えるものは何でも使うべきだ、ということに尽きるだろう。
イベントドリブン戦略
リストラクチャリングやM&A、スピンオフや破産といったコーポレートアクションに伴って発生する収益機会に投資する戦略である。M&Aアービトラージやディストレス投資が代表的である。日本で有名なハゲタカやモノ言う株主(本来はモノ言わぬ株主が異常なのだが・・・)、アクティビストファンドなどはこの区分に該当する。
プライベート・エクイティ(PE)投資
PE投資とは、未公開企業や取引後に非公開になる企業への投資である。PE投資にはヴェンチャーキャピタルとバイアウトキャピタルがあり、ベンチャーキャピタルには立ち上げ段階のスタートアップ、初期段階のアーリーステージからIPO前のレイターステージなどに分類される。また、バイアウトキャピタルは既存の企業を買収するために利用される資本で。レバレッジド・バイアウト(LBO)、マネジメント・バイアウト(MBO)、リストラクチャリング(ディストレスト)、メザニン債などがある。
イベントドリブン型のヘッジファンド、アクティビストとPEの大きな違いは株式の保有割合で、PEが経営権の取得を目的として5割以上の株式取得を目指すのに対して、アクティビストは多くても2割から3割程度までの取得しか行わない。ただ、近年はアクティビストが経営陣を送り込むケースも増えてきているため、厳密な分類は困難になりつつあるのは、ヘッジファンドの戦略分類事情と同様である。
不動産・コモディティ投資
不動産への投資は実物不動産への投資、不動産株への投資、不動産投資信託(REIT)への投資、不動産私募ファンドへの投資などが代表的である。また、コモディティ投資は、伝統的に商品先物のロングポジションを持つコモディティインデックスへの投資を指す。
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